自分未踏地
「もう歩かない。ここにする。ここが南極」といったとたん川のほとりに出ました。かわせみがずっと向うで魚を捕っています。「あの木は何」「雷に打たれて裂けたけど支障なし、かな」
さっきのとは違う、シフォンケーキの味と白パンの食感の果物で綿帽子はご満悦でした。皮はワインレッドで苺味で、中がパウダーベージュ色なのです。
「すぐ、お茶が入るよ」行楽用サモワールの蛇口をひねりながら露草色がいいます。
物理法則
もやい綱をほどいてそのボートに乗ると、ボートは漕ぎ出す前に水面を滑り始めました。「ちょっとこれ、何の動力なの」
「水の流れが思ったより早かったようです」とブルーラベンダーは青くなっています。
もうジェットコースターのような速度になっていました。
「これでは! パラソルも! 開けないわ!」風がびゅんびゅんうなって、叫ばないと自分の声も聞こえないのです。
「パラソルはあきらめて! それより滝に! 落ちそうです!」
そう言ったのが早かったかボートから投げ出されて水に沈むのが早かったか、わからないくらいでした。
願いが叶う
「水とドレスとパニエが体にまとわりついて重たい。川底から引っぱられるみたい」でも次に気づくと頭が水面に出ていました。「気を失うって憧れだったけど、こんなとこでなって欲しくないわ。それに気を失う直前までしか覚えてられないんだから、気を失ってもさっぱり面白くないのね」
なんだかさっきより体が軽いし、綿帽子はプールが大好きですから、岸まで泳ぐのはわけないです。渕は流れが遅いのです。
ごろごろした石に黒々と水をこぼしながらあがって見ると、綿帽子はピンク色ストライプのコルセットと白いレースのペチコートの水着を着ていました。薄くて水をそんなに含みません。「これって、いつの時代の流行の型なの。さっきのドレスより、ずっと露出が少ないわ」